リビドー

フィクションの中で窒息死するまでセックスしたい

終わりがないことは未来があることとイコールではない

注射器くんは私が今一番好きなセフレくん。

 

夏の終わりにセックスをしなければという使命感から、それまで敬遠していたマッチングアプリをインストールして出会ったのが彼だった。

「今日ホテルに行きたいの」というコメントに反応し、数多くの虫けらたちがいいねをくれた中で目に留まった彼と、メッセージを交わした30分後には新宿高島屋の喫煙所で対面した。

グローを吸う私の横に立った彼はアイコスを吸い、同じ歳とは思えないほど大人びた雰囲気だった。

 

新宿駅南口から東新宿のホテルまでタクシーに乗った。道中の会話を聞いていた運転手は何を思っただろうか。

 

ホテルの料金を気にするか否かで男の経済力は判断できる。古びたホテルの中でも特に安い部屋を選択する男は嫌いだ。

彼はキレイめなホテルの広い部屋を選択し、割り勘にしようと提案した私からは一銭も受け取らなかった。

援交以外で、しかも同じ歳の男性とのセックスで、お金を払わなかったのはいつ振りだろう。

 

第一印象では彼に対して少し苦手を感じたような気がする。それでもすべてを終えて一緒にたばこを吸う頃には、夏の終わりに彼とセックスできた喜びを全身で享受していた。

 

地下鉄の入口で連絡先を交換した。ラインのアイコン写真も、ミュージックを設定しているところもタイプとは真逆だった。

二度と会わない人に「またね」と言うのが私の決まりだ。

 

彼と初めて会った日の翌週も私は彼の部屋で彼とセックスをした。そしてその翌週もまたそれまでの穴を埋めるかのように、セックスをした。

気がつけば二度と会わないと思っていた彼に嵌って抜け出せなくなっていた。

 

立地もブランドも申し分のない彼のマンションに行く度に、私は自信を喪失していく。同時に彼に依存する気持ちが増していく。

段々と減る彼からの連絡に落ち込みながらも、元の自分へ戻っていく安心感を覚える。

 

私は膣に心があるタイプの女が嫌いだ。

永遠の愛を信じる人間が嫌いだ。

女の穴に精子をぶちまけて、平気で捨てるような男がずっと好きだった。

恋人にはなれないと初めからわかっているから、最高のセフレになって私に依存して欲しい。

 

次が最後かも知れないと毎回覚悟をする。

いつ捨てられても私は平気でいられると思っていたのに、彼のキッチンに置かれた注射器を思い出す度に私は泣いて、いつか愛されることを願う。