リビドー

フィクションの中で窒息死するまでセックスしたい

とおくはなれてそばにいて

終電近い時間に友人の家に行き朝方までテキトーな会話をして眠っては目覚め眠っては目覚めを繰り返して起きたのはお昼の12時を過ぎていたどんな会話をして何に笑っていたのかは一切思い出せないけれど5時過ぎにどん兵衛を食べたことは覚えているとにかく親子丼が食べたい気分だと数日前に27歳の誕生日を迎えた私が我儘を言うと彼は寝起きで商店街の精肉店に行き鶏もも肉を買ってきてお急ぎモードでご飯を炊いて野菜嫌いの私のためにネギ抜きの親子丼を作ってくれた大きな丼に入った熱々の親子丼を食べ切れないと思ったけれど私は完食した久しぶりにこんな多くの白米を胃に入れたというのに久しぶりに嘔吐もせずに幸せな食事だったどうして手料理というものはこんなにも美味しいのだろうレストランや居酒屋で出される料理も美味しいけれどいわゆる家庭料理というものには到底敵わないそれを知っていながらどうして私は料理をしないのだろうどうして私はご飯すら炊かないのだろう家に帰ってお風呂入ると湯船の中で少し眠って頭がスッキリした明日の仕事とピルを飲む時間を狂わせないために寝る時間を調整したつもりが隣人の会話のうるささに発狂しテレビから流れるドラマのセリフを真似したり誰かと電話をしているフリをしたりお経を唱えてみたりしたけれどうるさい会話が止むことはなくうるせえんだよここは単身用アパートなんだよ管理会社に許可取ってんのかおい聞こえてんだろ毎日毎日うるせえ死ねよ死ねいや私が死ぬよもう死んじゃうよこのままじゃ私が死ぬねきっと死ぬね近いうちに死ぬねなんて叫んでみたものの効果はなく気が付いたら会話はイビキに変わっていて窓から飛び降りようかと思った誰もいないはずの自分の家に他人のイビキが鳴り響くことに私はいつまで耐えられるだろうかあれほど我慢していた眠気はすっかり失くなり明日は仕事だから早起きしなければならないと自分に言い聞かせたはずなのに目が覚めたら9時30分だったちょうど丸ノ内線霞ヶ関駅に着く頃かと考えながら遅刻して出勤する気力なんてないことを確信して生理痛のためお休みしますと社内チャットワークを送ってまた眠った13時過ぎに目を覚ましたのは隣の部屋からうるさい咳が聞こえたからでああ私は24時間隣人に苦しめられてなんて可哀想なんだろうと思うお金があったら都心の築浅マンションで悠々自適に暮らせるのに隣人から発せられる騒音に悩んで髪の毛を抜かずに済むのに手取り16万円の私には到底無理な話とわかっていながらスーモやホームズを開いては現実に項垂れる誰か私にマンションをくれたらいいのに誰か私の家賃を負担してくれたらいいのに手取り16万円という情けない貧困生活から抜け出したい一心で風俗で副業もアリだなと考えながら今日も部屋の壁を叩く