リビドー

フィクションの中で窒息死するまでセックスしたい

コンドーム

現在の自分を救う方法は過去の自分に会うことだと昔読んだ本に書いてあった。

日記やアルバムを見返してみたり、地元に帰ってみたりと方法はいくつかあるけれど、特に匂いと音はすぐに昔にトリップさせてくれる。

母親が作ってくれた料理の匂い、父親が吸っていたたばこの匂い、元カレが付けていた少しキツめの香水、落ち込んでいるときに聴いた歌、好きだった人の好きな歌。


仕事で疲れた帰り道にどこからか焼き魚の匂いがした。

喫煙所で隣にいた人が父親と同じたばこを吸っていた。

駅ですれ違った知らない人から元カレの香水の香りがした。

誰かを想って聴いていた歌をダウンロードした。

誰かが好きだと言っていた歌をダウンロードした。


懐かしくて、切なくて、あの頃に戻りたいのに戻れないもどかしさに涙が溢れる。


正しい香水の付け方を知らなかった彼のせいで、私の全身までもが彼の香りで埋め尽くされた。あの頃の私は、正しい化粧の仕方を知らなかった。

iPhoneAirPodsもなかったあの頃、有線イヤホンをロングヘアーで隠して授業中に聴いていた。iPodの容量いっぱいに入れていたのに、いつも同じ曲ばかりリピートして聴いていた。好きなアーティストを知られるのが恥ずかしかった。


あの頃一緒に笑っていた人たちと縁を切ったのは自分なのに、たまに会いたいと思う。

一瞬でも自分に関わった生命体すべてが今、幸せでいることを願う。


財布の中に忍ばせていたコンドームはどこにいったのだろう。